[ 志賀浩二先生の数学教育と愉快な仲間たち ]
日本の数学教育の啓蒙者であると私が尊敬する東京工業大学名誉教授志賀浩二先生が目標とした「若者の知的好奇心を喚起する数学教育」活動、そして東工大早期退官をする理由となった「無限」に対する思いや「数学における概念のもつ意味」などを、中学生・高校生がなるほどそうだったのかと理解でき、そこから各々のイメージを膨らませることができる啓蒙活動の情報発信の場として、友人・知人、賛同していただける方々と共にその発信の場になるように、上記名称のもとで運営しております。現在、賛同・協力していただける有志の方々と月1回例会を兼ねた研究会を行っております。
また、このHPを主宰する私と志賀先生との関わりや志賀先生が目指した数学教育についての考えを、24年間そばで薫陶を得た私だけでなく愉快な仲間たちが、今後少しずつ連載方式でページに載せていきます。皆さんからのご意見・ご感想などをいただければ嬉しいです。
志賀先生の数学教育に関する著書・実践などに関するご意見・ご感想・質問、あるいは志賀先生に関する思い出などをお知らせいただき、HP運営にご協力いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
[ 新着情報 ]
1988年に朝倉書店から刊行された志賀浩二先生著「○○への30講」シリーズが、2月に93歳で亡くなられた本年9月20日に36年余の月日を経て新装改版で発売されます。これも何かの縁なのでしょうか。志賀先生はこれまで100冊以上の数学書や啓蒙書、数学教育書を著していますが、このシリーズは特に反響が高くまた志賀先生と読者の交流も深いものがありました。このHPの前身の適塾よこはま時代には、著者からの問い合わせや講演依頼・質問・要望なども担当しました。韓国の方からの30講シリーズに関する質問や要望、さらに大学生時代「30講シリーズ」を愛読した頃の思い出や志賀先生の著書の影響を受けてまとめられた出版物などに関するメールでの連絡や出版物の送付などが寄せられています。私の知らなかった志賀先生の姿を垣間見るような嬉しい知らせは、現在も中高一貫校で非常勤講師として働く私にとって、数学を学んできた喜びを実感するだけでなく、志賀先生に指導を受けた22年間の楽しくもあり苦戦した何物にもかえがたい日々の有難さを実感する貴重な刻です。読者の皆さんからの声を聴くたびに、私自身の未熟さを克服して志賀先生が著書の巻頭文として常に書き続けてきた日本の数学教育への思いを少しでも前に進められるよう努力することを生涯のライフワークと考える私を勇気づけてくれています。ありがとうございます。
志賀先生は著書の巻頭言を通して読者の皆さんに、
「勇気と大胆さをもち、その上繊細で大局観のある学びを通して、可能性を感じられる数学世界を創造しましょう!」と呼び掛けています。その1冊となる30講シリーズを是非購入して読破することを願っています。
[30講シリーズ]
微分積分30講,線形代数30講,集合への30講,位相への30講,解析入門30講,複素数30講,ベクトル解析30講,群論への30講,ルベーグ積分30講,固有値問題30講 全 10冊 定価 3,000円 ~
皆さん!是非、書店で手にとって立ち読みしてください。⇒ 結局買ってしまうとおもいます!
(追記) HPに集う友人と月1回の例会で、「集合への30講」で語られる無限から、バナッハタルスキーのパラドックスの世界を高校生に繋ぎ届けるための研究を行っています。
[ お願い ]
このHPを読まれた方で、志賀先生にまつわるいろいろな事柄、経験談などがあればぜひ投稿して教えていただきたいと思います。夢のような話となりますが、志賀浩二先生の数学教育に対する想いを将来1冊の本・冊子にまとめられたらと考えています。
私が志賀先生のお誘いを受け、一緒に桐蔭学園中等教育学校で教え始めたとき、桐蔭学園主催の数学シンポジュウムが開かれました。
その時に日本数学会の会長と京都大学理学部数学科教授の上野健嗣先生が対談しましたが、上野先生を送って新横浜駅に行ったときに、上野先生曰く「志賀先生はとっても厳しい先生だから注意しなさい。けれど今日見ていると君は剣道をやっているせいか間合いがいい」とほめられたことを思い出します。ご家族とのお付き合いの中でも「父はとても厳しくて … … 。あまり仕事のことは話してくれませんでした。ですから、適塾よこはまの記事を読んでこんなにたくさんの人から共感を得ていることを初めて知りました」とも言われました。そんなことから、志賀先生の厳しさなどを経験した方(特に東工大で先生の授業や指導を受けた方など)から是非当時の志賀先生のお姿に関する情報をいただければと考えています。一人の人間としての志賀先生の姿を知りたいなと思っています。何卒よろしくお願いいたします。
①皆さん方からのご意見・ご感想・ご質問等を受けるコーナー(最終ページ)の作成が完成、併せてメール・電話などの受付および返信・HP左サイドにある「新着情報・ブログ」に掲載することができるようになりました。 是非、ご利用ください。
②次ページ「志賀先生と私」の第2回投稿をようやく完了して、第3回投稿に取り掛かりました。興味ある方はご一読ください。
③現在のところ、このHPは歩きながら充実していくという形をとらざるを得ない状況にあります。各ページ内容の重複や内容の充実、毎月の例会での協議事項の報告や内容提案などの公開などやらなければいけないことが多々ありますが、忙しさに紛れて遅れております。
1つ1つのテーマは必ず完成させたいという強い意志を持っておりますので、ご容赦ください。
[このHPで取組んでいること]
このHPで取り組んでいるのは、志賀先生の東京工業大学を早期退官された最大の理由である「無限がわからなくなった」という言葉の意味や「無限に関する志賀先生のとらえ方」、その原点であるカント―ルの「集合論」(ダイナミズムと選択公理)、その延長線上にあると私が考えているポーランド学派、特に「バナッハ・タルスキ―のパラドックス」までをつなげた、志賀先生が見ていたもの、見えていたものを知的好奇心を喚起することの大切さにつなげ、志賀先生の数学教育観を高校生に伝えられる書物を作り上げたいと、力を貸していただける友人や知人他の皆さんとまとめあげるため頑張っております。私が適塾よこはまを閉じた理由の時間確保と細々と続けている非常勤講師の理由の金銭的確保がこれです。
(注) ここでまとめたいのは、専門的に粛々とした誤謬性のない議論の組み立てを基にした書物ではありません。中学・高校生の皆さんの知的好奇心を喚起することを第一義に、読んでいてワクワクするダイナミズムの感じられる書物です。志賀先生の著書(志賀先生と奥様曰くー100冊あるそうです)を読んでいただければ、わかっていただけると思います。私の感覚では、東京工業大学名誉教授のお二人である「遠山啓先生の無限」と「志賀先生の無限」(同じ出版社から出ています)を読み比べてみると何を目標にしたものか何を伝えたいかの違いが鮮明になるでしょう。どちらが数学的に評価されるかを論じたいのではありません。
中学・高校生に数学のダイナミックさや面白さを感じ、興味関心をもって取り組んでもらうためにはどういう視点をもてばよいかを、著者の意図などから読み取ることで知的好奇心の喚起に向けた議論が成立するのではないでしょうか。遠山先生にはこのように対比して失礼になるかとは思いますが、この点ご容赦ください。
[ 雑 感 ]
新しい教育観に立つ大学入学試験・共通テストが現高2生から実施されます。私自身も現在某中高一貫校で数学を教えていて、共通テストの数学の試験内容以上に新学習指導要領の狙いを読み取ると、数学を通して考える力を育て、帰納的な想像力を通して真偽が定かでない物事を自由に発想して考える柔軟で柔らかな心で想像する基盤に立たず、目の前の事象に対して処理能力だけを問題にする統計学の勉強に終始させるという視点だけが突出していることです。もはや「数学の授業で数学とは似て非なるものを学ばせる」ことに尽きていることを強く感じます。このことは大学で数学を教えている先生方はもとより、実際に統計学を教えている多くの先生方の感想でもあります。
一時期、文科省が主導して「ゆとり教育」を主軸に据えた学習指導要領が実施され、轟々たる非難の下で10年の更新を待たずに切り替えが行われたときのことが想起されます。もっと腹を据えた教育観をもった方が前に出てこないと、日本の数学教育は大変だと思います。
つい先日、東大に入学して修士課程を修了後某有名企業に2年間勤めた後にアメリカの大学の博士課程で博士号を取得、シリコンバレーの某企業に今年就職した私の教え子と会食した際に、日本での高校までの数学教育の状況とアメリカの状況が話題になりました。その時、私がアイビーリーガーを代表とするアメリカの大学教育の厳しさを話すと、「日本の人はアメリカの大学教育の実情を知らないままマスコミその他の話を鵜呑みにしているだけなので、本当の実態を分かっていない点に問題がある。」と言われてびっくりしたのですが、もう少しきちんと理解した上で議論をしないといけないのだなと反省しました。日本の大学教育が本当にこのまま進んでいって良いのでしょうか。「即戦力」という言葉が物語っていますが、そのすべてを大学以下の学校教育に持ち込む議論は、企業そのもののもつ社会的な責任を放棄しているように思えてなりません。他人のふんどしで勝負するのではなく、自律的な企業理念を前提とした人材育成の重要性を考えて欲しいと思うのですが、時代遅れでしょうか。また、文系と称する人たちがしっかりと数学のもつ重要性を理解した上で中教審等で議論して欲しいと切実に思っていますが、如何でしょうか。
私は今、平成13年から現在までご指導をいただいてきた東京工業大学名誉教授の志賀浩二先生の数学教育に対する想い(先生が東京工業大学を早期退職してまでやろうとした根っこの部分)を「無限」を通した考え方を中心に、カント―ルの整列集合から選択公理、そしてポーランド学派であるバナッハ・タルスキ―のパラドックスまでを高校生にもわかる言葉でまとめた小冊子を仲間たちと作成中です。インターネットの皆さんのまとめや友人その他の協力を得て今一歩のところまで進んでいます。志賀先生が100歳になられる前に完成して、感想を聞いてみたいというのが私の夢でした(残念ながら間に合いませんでした)。本当に数学というのは面白くてワクワクする学問ですね。それを伝えるために教え子たちと作った適塾よこはま、9年目の今春、志賀先生のご逝去を節目として終了いたしました。
私の桐蔭中等時代の教え子ですが、山中先生にあこがれて京都大学医学部を目指したのですが、達成できず慶應医学部に進み研修医を終えた今春、東大の博士課程に進み、悪性腫瘍についての博士論文をまとめています。つい最近の連絡では必要条件と十分条件の実証に苦戦していると話していました。いずれにしてもまもなく博士論文を書き上げるでしょう。ご両親の病気などで本当に苦学して頑張った教え子の一人なので、是非大成して欲しいと念じています。