志賀先生の見ていたもの    - 無限とは何か

志賀先生の見ていたもの    - 無限とは何か

ある日ある時の志賀先生の一言から その1
 
[ 志賀先生が見た無限とは ]

 

 志賀先生の「無限」を理解する上で読んでいただきたいのは、「数学への30講」朝倉書店、「無限のなかの数学」岩波新書、「無限からの光芒:ポーランド学派の数学者たち」日本評論社の3冊をお勧めします。最初の「数学への30講」は大学で数学を学んだ中高年の方々には必読書だったかと思います。2番目の「無限のなかの数学」は、志賀先生の数学教育観を色濃く出しているもので、読んでいてワクワクするような数学のダイナミズムを味わえる癖になる本の一つです。3番目の「無限からの光芒:ポーランド学派の数学者たち」は、私なりに推測すると志賀先生と無限の関わりを決定づけたものだと思っています。この点に関しては、ブログ「志賀先生の思い出-バナッハ・タルスキ―のパラドックス訳書」でも取り上げています。興味のある方は、是非購入してお読みいただけると嬉しいです。
追記

遠山啓先生のご専門は代数学、志賀先生のご専門は微分位相幾何学と別れますが、同じ東京工業大学名誉教授です。遠山先生の岩波新書の著書に「無限と連続-現代数学の展望」があります。私が桐蔭学園中等教育学校で教えていて、志賀先生の数学のBコースを教えていたTM氏が数学科主任だったときに、学習院大学で行われる都数研主催の〇〇年度大学入試分析研究会に一緒に参加しました。そのとき、啓林館「数学の活用」という探求型小冊子を副教材として刊行したのですが、いくつかのテーマでそれを素―ページの範囲でまとめたものでした。なかなか興味深い内容だったので、次年度生徒に副教材として持たせたいと提案したところ認められました。その後GW明けの頃でしょうか。せっかくもたせたのでそれを活用するために、7月中旬の5日間程度で中等4年生対象に、この中のどんなテーマに興味を感じていて、それを深めたいかというアンケートを取り、当時の中等教育学校数学科全員がアンケートの上位のテーマを1つずつ担当して探求学習をしようということになり、私は「無限について」というテーマ(30人位)でやらせてもらえることになりました。そこで、無限の世界と有限の世界をツェノンの逆説から、結合定理の不思議、ヒルベルトホテル、カント―ルの対角線論法、ライプニッツの誤り、微分積分などを1つの冊子(50ページ程度)にまとめて講義しました。面白かった記憶があります。このときせっかくなので、志賀先生風のダイナミズムを生かしてと考えて「無限のなかの数学」を下地に使わせていただきました。その時、せっかくなのでと遠山先生の「無限と連続-現代数学の展望」も再読して、お二人の数学教育観の違いに触れ、面白かったことを思い出しました。

 

平成14年3月25日頃、志賀先生と私は教科書「中高一貫数学コース」と問題集「中高一貫数学コースを楽しむ」を使った授業の進め方や教科書・問題集の使い方などを協議するため3泊4日の日程で熱海後楽園ホテルで勉強会をもちました。宿泊したホテルには東京から毎晩岩波書店の担当編集長もお見えになり、私に作成に至った経緯や解答・解説をつけなかった理由、まだ未完成の3年生以降の教科書問題集のまとめ方をレクチャーしてくれました。その上で教科書と問題集の関係についての志賀先生の狙いもしっかりと説明を受けたのです。夕食時に私が何気なく志賀先生に問いかけた「先生はなぜ東京工業大学を早期退職されたのですか」に対して、しばらく考えていた先生の答えが「無限がわからなくなったからなんです」でした。この段階では志賀先生が何を言っているのかわからずあれこれ考えるだけでしたが、1ヶ月、2ヶ月、……、1年、2年っ……たち、本当に追7,8年前になってこういうことかもしれないという一つの結論に達しました。ただその時にはすでに、その1でのべた「概念」の話が中心になっていて確かめる言葉も応える言葉も確定的なことにはなりませんでした。しかし、志賀先生が書いてきた書物を改めて目を通すと、カント―ルに対する問題意識と遡及、突然のバナッハ・タルスキ―のパラドックスにつながるポーランド学派に関する興味の向け方・そして本当に最近友人からの要請で病床にある東北大修士を終了された方が40年前に作成したバナッハ・タルスキ―のパラドックスの訳書の内容について、志賀先生と・砂田先生におしかりを受けそれが一生の悔いになっているという話から、志賀先生がなくなる1週間前に私が長女の方にお願いして、志賀先生の枕元に彼が訳した「多様体の解析学」の本を置かせていただきました。
私もコロナ禍の前から、5年計画になるかもしれないがカント―ルからバナッハ・タルスキ―までをつなげて「無限」とは何か、志賀浩二先生が見ていたものに一歩でも近づかれば、そしてそれを高校生でも読める知的好奇心を喚起するような書物としてまとめられればと考え、友人の助けを得てまとめています。
このコーナーはそれに対する皆さんの意見や考え、アドバイスをいただくところとして設置したものです。できれば、私の意を汲んでご協力いただければ幸いです。

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