2017国公立難関大数学
(1) 東京大学
① 文系
高2の塾生は、10分余りの75点/80点。鉛筆が全く止まるところがない4題でした。
なお、文理共通の文系第4問、理系第4問は1ヵ月前の講習で演習解説済で的中です。
第1問 結論がQ/Pの最大値より、P , Qの式を求めることが必要です。S=0とするとAは
y=0でx軸、S=1とするとy=(x-1)^2の図形、T=0とするとBはy=x^2、t=1とすると
y=-x^2+1とx軸,y軸で囲まれる図形(x≥0)より定積分に落とし込める。
s , tの2変数だが条件「A , Bがただ1点を共有する」で、1変数にまとめられる。
第2問 難しく考えると、2000東京医科歯科大(領域の次元の拡張)、2006京大のベクトル
(重心の動く領域)の類題です。共通1次試験の札幌予備学院清水講師の等比写
像を基にした「UFo理論」が有名でした。センター試験でもこのような出題を期待し
ていたのですが、2次試験問題と位置付けられてしまったようです。
ベクトルの表す領域の考え方がわかっていれば簡単で、第1問同様に0≤s , t≤1を
基に(s , t)=(0 , 0) , (0 , 1) , (1 , 0) , (1 , 1)で追跡すると図形の形が出てきます。
(数研の4STEPの相似形の面積の類題レベルといったら言い過ぎでしょうか)
第3問 他大学を含め(1)P1 , P2 , P3 を求めよ。(2)Pn+1をPnで表せ。(3)Pn を求めよ。
という誘導型で出題されることが多かった確率漸化式問題を2012の東大の出題
では(1)の設問がなく、正答率が低くなりましたがその出題方針は共感できるもの
でした。この形の出題がまた元に戻りました。(1)の規則性に着目した考え方こそ
重視すべき事柄と思うので、(2)の6秒後という具体的な設問からも(1)の設定は
やりすぎのように思いますが、如何でしょう。
第4問 ここでも第3問同様の(1)の設定が気になります。(2)は普通に展開して整理すれ
ばできます。(3)は自然数の集合が閉じていることを帰納的にいう問題ですが、
これは受験生的にちょっとと思う場面があったかもしれません。
(4)は数研の問題集改メジアン数学ⅠⅡAB受験編 「数列 数学的帰納法」359
の類題です。メジアンのほうが難しい。
② 理系
高2の塾生は、72点/120点。例年の東大では、「計算処理の工夫」がないと、混沌の
の世界に落ち込んでしまうが、今年は特別考えることなしに計算処理をしていけば、
どんなルートでも時間内で結論に達することができてしまったようです。
第1問 3倍角の公式を知らない東大受験生はいないので、x-1で割り切れて整関数に
なることがわかれば、やり慣れた下に凸の2次関数の最小値問題、出題者側が
読みすぎて判断した問題レベルとのギャップは大きかった。
第2問 文系の第3問との共通問題だが、さすがに文系の(1)は外してあった。(1)で移動
の分類ができていれば、(2)ではそれぞれの場合×回数の和=(0 , 0)になるので、
確率の計算が具体的にできる。
第3問 昨年が、実部と虚部の働き、偏角の使い方に工夫が必要で、現役生は1点突破
の全面展開を狙って、中途挫折した答案ばかりだったようです。
それから考えると(1)は垂直二等分線上の点より |z-α|=|z| の式が立てられれば
結論の表現に沿って答えるだけです。
(2)はzとz^2を結んだ線分は(1)と同様に垂直二等分線より関係式 |z+1|=|z|が、
1の3乗根の図形的意味から2/3π≤argz≤4/3πが見えれば(1)の応用です。
第4問 文系第4問と共通問題より、その講評を参考にしてください。
第5問 (1)はCとy=ax+bの関係が判別式D=0、Dとy=ax+bの関係も同様として得られた
連立方程式を解くだけです。(2)は、a=2として(1)の結果を使うだけです。
第6問 空間問題を扱う方法として、概念図をかいて図形の性質から幾何的に処理する
方法と、与えられた条件から式を作って解析的に処理する方法がある。
後者の方法による解法ができると空間図形の問題も扱いやすい。
(1)はまさしくそのものずばりの問題でP (x , y , z) として、OP=1 , PQ=1 から式
を処理すれば、簡単な切断図だけで答えられます。
それに対して、(2)はいつもの形(易しくなっているが)の概念図のイメージが必要
な定番の出題設定です。ひょっとして(1)ができなくて(2)ができるという変な数学
観を持った受験生がいたりするかもしれませんが、良くない傾向だと思います。
(2) 一橋大学
例年なら時間内で計算処理を終われずに泣いている受験生が続出するのが、一橋
の数学でした。理系に負けない空間認識や構想力を要求する問題などもちらほらと
見られたのですが、今年に限っては、それほどと思える問題は見当たりません。
また、昨年まで二年間続いた選択問題も終了して、今後はこの方式でいくでしょう。
第1問 2変数の最大、最小値問題だが関係式a+b=9により1変数問題となる。
失礼な言い方ですが、この問題の出題の意図がわかりません。
第2問 一橋の整数問題は、単純な設問設定の中に整数問題を考える上で必須の
「絞り込み」の考え方が問われる良問が近年目立っている。
延長線上にある問題で、絞り込みの考え方でいくつもの別解が存在する。
変数の符号や順序性が決め手になることに注意したい。
この問題は x の符号で分類すると、すっきりと絞り込みができる。
① 0≤xとすると 0≤x≤y≤zよりx^2≤yzとなってx^2=yz+7が成り立たない。
0≤zとすると x≤y≤z≤0よりz^2≤xyとなって z^2=xy+7が成り立たない。
以上から、xz<0 と仮定できる。
② このとき y^2=zx+7より y^2<7となり、絞り込みができる。
⇒ y=0 , ±1 , ±2 ⇒ (x , y , z)=(-3,1,2) , (-2,-1,3)
別解としては式の変形の発見の容易さと絞り込みの簡単さで選択するとよい。
例 連立方程式の式変形に注目すると ⇒ x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx=21 より
1/2{(x-y)^2+(y-z)^2+(z-x)^2}=21 ⇒ (x-y)^2+(y-z)^2+(z-x)^2=42
この後、順序性 x≤y≤z を使ってどう絞り込むかです。
第3問 積分方程式の解法で必要とされる整式の次数の決定問題と類似な問題で、
整式P(x)の次数が2次、3次の場合を具体的に考え、それを一般化する記述
を考えれば十分です。
第4問 文字定数が多くて一見戸惑いそうな問題ですが、符号が与えられていること
から、|ax+by|≤1⇔-1≤ax+by≤1⇔ax+by≥-1かつax+by≤1を簡単に図示
できる。後は交点の座標を求め、a+b+c=1,a>0,b>0,c>0を使って変域と変数
整理をすると、文系型の最大・最小問題となります。
第5問 一橋のベクトル問題で多い空間認識型の問題ですが。ただ、何気なくx=y+1,
y=z+1,z=x+1とかかれた表現はy=f(x)型の式に慣れている文系の諸君には
とっつきにくい形だったかもしれない。そんなことを気にせずに論旨を進める
という一橋大学伝統の問題の一つです。表現の仕方に戸惑わなければよい。
(1)は直線の方向ベクトルからℓ上の点P2の座標を(0,s,s-1)としてP1P2⊥ℓで
P2の座標を決める。P3も同様である。
(2)は(1)の議論の一般化です。ただし、(1)で現れたP1,P2,P3が必要なので、
P3m-2,P3m-1,P3m,P3m+1からP3m-2P3m-1,P3m-1P3m,P3mP3m+1を
調べる必要があることに注意したい。このタイプの問題では(1)の議論の本質
がきちんと理解できているかどうかが解法のポイントになる。
(3) 東京工業大学
数学を学習することの意味を平易な問題の中で考えさせる問題だけでなく、東工大
の過去の出題傾向に基づく問題もちりばめられている珠玉の問題群だといえます。
この形の出題が少なくとも2,3年続くことを心から願っております。
こういう問題をしっかり考えられる生徒を育てていきたいと切に思っています。
第1問 質問の仕方は面白いが、具体的な取り扱いだけで解けてしまうため、東工大
が狙う「数学ができる生徒の獲得」という点では、物足りなさが感じられる。
解答の骨子は、12が約数よりNの約数には12=2^2・3から1,2,3,4,6,12が含ま
れていることがわかれば、条件(ⅱ)から残りの約数の候補は5,7,8,9,10,11と
わかるので、十分条件を満たすかどうかをチェックするだけ終了です。
第2問 最近は他大学同様の誘導型小問分割形式が続いていたが、久しぶりの過去
の東工大の数学の質を担保した伝統に基づく一行書き問題です。そのうえ、
代表的な三角関数の周期性を基にした問題です。受験生の数学力とセンス
を図るにはこれだけで十分だという出題です。
要点は被積分関数の動向より、絶対値を外した定積分の計算が核心です。
f(x)の周期性に目をつけ、増減表の範囲を考えることができれば容易です。
一般的には、f(x+π)=f(x)を示して0≤x<πの範囲で考えればよいことをいう
のですが、臨機応変に記述すれば十分です。これで解法は終了です。
第3問 今年の入試で最も目立った問題ですが、このような考え方を問う問題は過去
の東工大入試では、毎年出題されていたタイプです。第2問の問題といい、
出題傾向が変わって以来の出題内容についての分析と反省の下での回帰で
あったとすると、賛同できる結果です。
東大が後期試験を止め推薦入試制度に移行したことを、すごく画期的な事柄
のようにマスコミや教育機関がはやしていますが、そもそも東大の後期試験
は総合試験だったので、現在の推薦試験の変形と考えれば定員や内容的に
大きな変化はありません。せいぜい女子を取りやすくしたという逆ジェンダー
に変わっただけです。ということで、今年のような東工大入試の伝統への回帰
は望むところでしょう。この問題については、「紙を配った」ことに目を向けるの
でなく、是非上記の視点で見てもらいたいものです。
さて、問題の解法は「場合分け」の取り方がポイントになります。
ただこういう問題では、自分が気づいた場合を最後までやり切った上で、それ
以外はないかを考えるという具体的なアプローチも有効です。最初から一般
的にやろうというスタンスだと、自分の能力以上の問題には全く手が出なくな
なります。得点力を高める要点は「自分の土俵で解く」ということにつきます。
折り目の頂点Qが辺AD上で、PQ=QDの場合は比較的容易に気づけます。
長方形ABCDの辺ADをBCに平行に折り、Q=Aとする場合はAP=1でS=0
長方形ABCDの辺DCをABに平行に折り、Q=Aとする場合はAP=0でS=0
辺に平行ではなく、角度をつけて折るとき点Qが辺AD上にある場合を考える。
次に、折り目の頂点QがDC上で、AP>1の場合を考える。
折り目の頂点の辺上の位置による分類です。 1つ1つの場合は、中学時代に
勉強した対称性の問題です。それを体系的に1まとめにして解答記述せよが
出題の意図です。全体構造が見えないと時間がかかる問題です。
第4問 この手の問題を解きなれている人とそうでない人との差は大きい問題です。
そういう点で、浪人生には有利な問題だったと思われます。
確率漸化式の問題解法で有効な集合A1 , A2 , A3 の要素で、条件⊗を満た
す文字列の個数を具体的に調べる。すなわち、今年の東大の確率漸化式の
(1)の部分にあたることを自分でやることです。そうすることで、数え方に潜む
規則性を見つけ、漸化式で表現するのです。ここで大切なことは答えではなく
途中にあらわれる規則性への着目です。
Anの要素は3^n個あります。⊗を満たすAnの要素をqnとすると、樹形図から
q1はa,b,cの3個、q2は2・q1+2q0、q3は2・q2+2・q1…(ただし、q0=1とする)
これを一般化すると条件を満たす個数の漸化式qn+2=2・qn+1+2・qnです。
十分に満たすかどうかのチェックをすれば、一見とっかかりがなさそうな問題
もこれで、やれそうです。これが(1)の解法です。
(2)は、条件付確率であるという凝った作りになっています。
Q(n)=(7番目かつ10番目がcである確率)/(7番目がcである確率)
7番目がcである場合は、6または8番目がaまたはbで残りは⊗を満たす。
1~6番目まではq5より2×q5、8~n番目まではqn-8より2×qn-8だから、総数は
2^2・q5・qn-8個である。
7番目かつ10番目がcの場合は6,8,9,11番目がaまたはbから同様に数えて、
極限をとればよい。3項間漸化式の解法や根号の計算を上手に処理したい。
第5問 東大に代表される図形的な設問が目立ちますが、この時期の複素平面の
出題として、文句のない良問だと思います。私が3年前に予想した問題です。
このような観点での出題は過去にもありましたが、2次方程式の解法を学習
してからずっともやもやしていた実数の外の世界がはっきりと理解させられ、
文理に関係なく方程式論の授業でも楽に話題にできる実用的な問題です。
(1)は、よくある実数解条件の逆の発想ですから、D<0 かつ |α|=1を満たせば
よい。このとき、2次方程式の解と係数の関係は、解が実数、虚数に関わらず
使える関係だということがわかっていれば 2つの虚数解は共役な虚数解より
αα^¯=|α|^2=1も成り立つから、-2<c<2がわかる。
(2)は、実係数の4次方程式の解がすべて虚数解であれば、共役な虚数解の
組から題意は当然のことです。ここではそれを論証せよということです。
F(x)=0の解がすべてT上にあれば、解はすべて虚数です。このとき、その1つ
をαとすると、共役な虚数α^¯も解なのでF(x)=(x-α)(x-α^¯)Q(x)と因数分解が
できる。ここで(x-α)(x-α^¯)=x^2-(α+α^¯)x+αα^¯となるがα+α^¯は実数より
-c1とおける。またαα^¯=1より、F(x)=(x^2+c1x+1)Q(x)となる。Q(x)について
も同様にして、x^2+c2x+cがx^2+c2x+1となる。
(3)は、(1)、(2)でやったことをまとめればよい。
すなわち、F(x)=0の解がすべてT上にあるための必要十分条件は、(2)と(1)の
結果から、F(x)=(x^2+c1x+1)(x^2+c2x+1)かつ-2<c1,c2<2である。
よって、係数比較してc1+c2=a,c1c2=b-2より、c1,c2はt^2-at+b-2=0の2つの
実数解で-2<t<2の範囲にある。
ここから先は、解の配置問題よりグラフを使って解けばよい。
(4) 京都大学
注目された国公立大学前期試験が終了しました。受験生や同僚からいくつかの大学の数学の問題をいただきました。今年注目したい点をいくつか述べます。私の手元にあるのは、東京大学理、東京工業大学、一橋大学、東北大学工の4大学の問題です。
全体的な感想は、国公立難関大学での数学の出題に対する明らかな考え方の転換?です。一番わかりやすいのは東大です。「発想力を問う問題⇒0題」、「計算に工夫がないと時間内に解けそうもない問題⇒逆の意味でスパッと切れるという形が0.5題」、ほぼすべての問題が問題文を読んで素直に解答につなげられる問題ばかりでした。
当塾の理系高2生の同日模試の得点は72点/120点でした。この傾向は東大だけでなく一橋大学でもほぼ同様でした。「空間認識に関係する発想力を問う問題⇒0題」、「計算に工夫がないと大変な問題⇒0題」、以下同様で最後の問題の最後の小問がちょっと引っかかりそうなところまで、東大と同じです。東北大学も全般的にすべての問題が手をかけやすい形で易化しています。東工大は、問題を考える上で「折り紙」が配布されたということがあれっと思わせる点でしょうか。
まとめると、東工大の折り紙が象徴的な出題傾向を表しているように思われます。
すなわち、例の「新教育課程の先取り」の地ならしという観点です。女子を取りたいという一部巷の噂?は、女子に失礼だと思うのですが。
私のブログ「早慶理工の数学」の評価を見ていただくとわかりますが、早稲田の出題傾向が今年はひときわ目立つ難関大入試の数学の傾向と思えます。「探求力」とは「発想力の強化」なくして得られないものだと思いますが如何でしょう。
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