2020 年頭に想う
当塾のホームページにリンクされたブログ「アメリカ大学院でphDを目指す」が、7カ月ぶりに更新されました。
執筆者である彼は、私立中等教育学校での私の教え子です。現役で東京大学理科1類に合格、工学部応用化学科卒業に引き続いて2年間の大学院修士課程を終了しました。その後の進路としてそのまま東大の博士課程に進まず、某有名企業の研究所に勤務しながらアメリカの大学の博士課程に進む道筋を研究し、2年後その甲斐あってアメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校 (UCSB)の博士課程進学を昨年果たしました。過密な研究日程の中でPhD合格を目指した各種手続きやその仕組み、出願資格や採用されるための論文等の資料の作成などを手探り状態でやり遂げました。ただ、本人としての第1志望はマサチューセッツ工科大(MIT)でしたので、そこが不合格になった時には、私のところに心細さが伝わるメールが何回も来ました。それでもめげずに頑張った粘り強さは、数学が不得意で後期課程3年間、朝・昼・晩と私から離れないで勉強に引き釣り込んだ彼の本領発揮です。自分と同じようなことを目標にする後輩の皆さんに、その大変さを軽減して、苦労を少しでも少なくしてあげたいと彼が考えて始めたブログがこれです。
最初は順調にブログの更新も行われていたのですが、昨年夏あたりから更新が止まってしまいました。心配して連絡すると、日本からの友人や、書くための種はいくつもある等々の言葉が返ってきて、ちょっと心配をしておりました。その理由が今回のブログの更新で理解できただけでなく、それ以外の出来事の報告も併せて届いて、びっくりすると同時に安心しました。現在は、自分の思い立ったことや友人の近況などの情報を2年前と同じように頻繁に送ってきています。それにしても、昨年1年間は、本業のUCSBでの研究活動だけでなく、3月の横浜での結婚式、4月の夫婦そろっての渡米、そして11月の第1子のアメリカでの出産など、すべて夫婦2人でやり遂げるという超人的な行動力です。
ブログを読んでいただいて、この間追加された内容から、日本とアメリカの教育スタイルの違いを感じていただけると彼にとっても本望でしょう。
彼のUCSBでのこの間の授業や研究活動を詳細に紹介した内容で、とても興味をひかれる内容です。是非ご一読ください。彼なりに研究を目指す日本の人たちへのメッセージだと受け取っていただけると嬉しいです。
昨年ノーベル賞を受賞された吉野先生が、「日本の大学で研究する博士課程の学生の少なさに、今後の日本の科学技術の衰退を見る」といわれたことから考えると、このブログの内容はその言葉に逆行するように見えます。しかし、ブログの真意は「青年よ大海に出でよ」は研究スケールを広げる上で絶対に欠かせないものと考える点にあることをご理解ください。要は、科学技術者の人たちに日本で研究することが魅力だと感じられる、国家レベルの取り組みこそが必要なのではないのでしょうか。苦労をすべて個人に任せ、果実だけをもっていく考え方では誰もついてはこないことを、もっと真剣に考えるべきだと思うのです。
私的には、今話題の量子コンピューターの基礎研究を、初期の段階で主導していた日本の今置かれている現在の状況を見過ごさないで欲しいと思うのです。最近、話題になっている「量子アニーリングの理論」は、ある目的に特化した組合せの最適化問題を解決する理論です。一方、そもそもの量子コンピュータの考え方は「量子コンピュータのゲート理論」で、汎用性をもった理論です。前者は既に海外企業では実用化されているのに対して、後者はまだ苦戦しています。0と1を同時にもったビットの安定性(一定時間の実現)が、前者は許容範囲で実現できているのに対して、後者はまだまだ十分にできていないということが原因です。実は、このゲート理論の方を某大企業の研究所で私の教え子が研究しています。この間、お酒を飲んだ時にまだ時間がかかるという話をしていました。彼は中等2年生の時に「全体をいくつかのグループに分けて、それぞれに見合ったふるいを用意することで、素数に規則性を与えることができて、それが複層的なチェーンの空間のように交差する形で考えられる」という仮説を立ててそれから現在まで、頑として「素数には規則性がない」ことを認めずにライフワークにしています。当時の私が教えていた私立中等教育学校では、東京工業大学名誉教授の志賀浩二先生が自分で執筆した教科書を使って教えていて、梁山泊の豪傑のような気風が感じられる生徒たちがたくさんおりました。懐かしいですね。
最後に忘れてならないことは、過去のノーベル賞を受賞した方々が話される言葉の中に必ず含まれる、「職制の上下ではなくいろいろなことを自由にやらせてもらえたからこの研究があった」という言葉の重みと真意を理解することだと思います。
誰であっても何歳であっても「boys be ambitious」を目指したいものです。
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