2017私立医問題分析
⓪ 順天堂 1月19日
第1問の(1)は、誘導に乗っていくだけです。(2)は斜回転の体積問題ですが誘導が丁寧なのでできないと困ります。(3)は昨年の東大形の複素平面の三角形(偏角を表す極形式)の出題ですが、処理が素直なのでこれもできないと困ります。(4)は指数関数のグラフと対数関数のグラフの関係を前提に、内積の最大となす角の関係から、「接する」場合に気づけるかどうかがポイントです。第1問は各分野の重要学習事項が背景になった良問です。
第2問は、円と楕円の関係を基にした順天堂が好きな糸巻き問題ですが、受験生にとっては難しい問題です。時間があればというところです。
第3問は、(1)はイエンゼンの不等式(グラフの凹凸と中点の関係)の典型的な問題ですが、それがわからなくても処理できます。(2)は相加相乗平均の一般的な論証ですが、やったことがあればn=3の渡り方からn=2^kの意味が分かるはずですが、私は現役の高校教師時代は「一般化と抽象化」という視点で、放課後の特別講習で高校1年生に教えている内容です。志賀浩二著「中高一貫コース数学2を楽しむ」(岩波書店)に載せられています。(中学2年生用の副読本)興味のある方は書店または図書館でご覧ください。(3)は閉区間[0 , 1] を2^k 等分する区分求積問題です。
今年の問題は、高校の特別講習の問題と考えるととても良い問題ばかりです。しかし、そういう問題こそ受験生は苦手ですから、受験生にとってはかなり難しかったと思います。合格レベルとしては、第1問完答、第2問前半のアイウ、第3問(1)、(2)部分点で55%程度は欲しいでしょう。
➀ 日医 1月23日
第1問は、教科書傍用問題レベルで、芝浦工業大学2014年建築で類題が出題。
第2問は、複素数平面の極形式問題。新学習指導要領に変わった昨年から出題する気満々の私立医から、予想通りといえる。
第3問は、「積分の平均値の定理」を知っていて、それを使える問題かどうかに気づいたかどうかがすべてです。そうでなければ捨てるしかない問題です。
第4問は、出題の仕方に一工夫があるが題意が読み取れればそれほど難しくはありません。小問の流れから問2を確実に処理して問3に行く時間が取れたかが勝負です。
第5問は、2次曲線の定義を押さえてやれば失敗は少なかった。問3は意味を考えて答えればよい。
正規合格者の数学レベルは、第1問完答、第2問(早い段階のミスが怖い)、第4問(第2問まで確実に)、第5問(第2問まで確実に)は7~8割程度の最低65%程度と判断する。日医志望者の傾向として数学のレベルが若干低いことを考慮した。
② 東邦 1月25日
東邦については問題が回収されたため、塾生の報告を基にまとめると
・昨年度小問15題だったものが10題に問題数が減少したこと
・昨年度は数学Ⅲ分野の計算と問題レベルが難しかったが、それに比べて問題のレベルが易化したこと
以上から、正規合格者の数学レベルはほとんど満点レベルで、9割は絶対です。
③ 昭和 1月27日
第1問は、(1)は日医同様に複素平面の極形式の問題でした。小問の流れは日医と全く同じでΣで表現されていたことが異なるだけです。
(2)はベクトルの分解の基本、(3)は人により易しそうでいてまごつきもあった問題です。ただ、指数形だから対数形の答えになることが読めれば計算処理は自明です。
第2問は、題意が読めたかどうかが勝負です。昭和の数学を作題している先生が統計分野の先生であるということがはっきりわかる問題です。決められた時間から一番最後に取り組む問題でしょう。
第3問は、(1)は良問です。1999年東大で出題された独立試行型の確率(電流の問題)に対して、水の流れの問題として出題した2009年の昭和の問題同様に昭和の問題の中には、東大の問題のエッセンスが転化(確率系だけだが)された形のものがたまに見られる。この問題の出題の意図も確率漸化式の出題の多くが最初の設問でa1、a2、…を求めさせてそれをヒントにして(2)で漸化式を作らせるという手法そのものであり、なぜ(1)a5が設問されているかが見破れるかどうかで決まる。すなわち、漸化式をパターン的に解くのなら(1)の設問はいらない。必要であるとすれば、a5を求める過程での規則性か周期性の問題であるということが核心です。
一方、(2)の出題はいただけない。旧課程の2014年に期待値を出題しているが、この時は「確率」の勉強の中で全員が期待値を学んでいた。それに対して、新課程では数学Bの「第4章 率分布と統計的な推測」の中で「期待値」、「分散」、「二項分布」などが説明されています。
しかし、それを選択する進学校はほとんどなく(私の知っている範囲では桜蔭は学習しています)、現役生にとっては不利だったと思います。典型的な大学の先生は高校の教育課程を調査して問題を作っていないという悪例の一つでしょう。
第4問は、各設問ごとに仕掛けられた「式の形」を適当に処理できれば完答できる問題です。ただ、最後にてきに(4)、(5)で数学Ⅲの関数がでたのはちょっとと思うが、出題者は数学Ⅱのつもりかもしれません。
以上から、正規合格者の数学レベルは第1問、第4問完答で、65%程度と判断する。特に、第3問(2)が合否を決めたと判断します。
④ 慈恵医科 2月5日
第1問(1)は「確率」、(2)は図形の計量(内接円)の問題で間違えようがない問題で完答しかありません。全員に基礎点として得点を与えただけの問題で、失礼ながら出題の根拠がわかりません。残り3題の試験といえます。
第2問は一見めんどくさそうに見えますが、定数mの変域がm>1と決められていることもあり、簡単です。(1)の定積分における被積分関数が絶対値であるときの計算処理ができて、f(x)を与える場合分けから得られる式を間違えなければ、e≤x≤e/mの範囲の関数に注目して問題なく解けます。この問題も、受験者のレベルからほとんど得点差がつかない問題です。完答すべき問題です。
前半の2問に対して、後半の2問は難しくて逆の意味で差が付きづらい問題群です。
第3問は、特に後半が東大型の整数問題に類似しています。a(ab-p^2)=c^2 の形から、aが素数であることからc=ak (k∈N)を導き出せたかどうかがpointです。後半は自然数kについての2次不等式を関数のグラフから考えればできます。(2)は「3つ」の自然数の最大公約数が1であることを具体的に考えるとわかりやすい。この問題は(1)の最初の式変形をイメージできるかどうかで、大きな得点差になった問題です。部分点をもらえるような記述ができないと合格は苦しいでしょう。
第4問は、三角形を複素数平面で考えさせる問題で今年の医学部入試の一番の特徴といえる問題です。しかし、この問題については「何を求めればよいか(外接円の半径)」という「結論」から式の組み立て方を考えていかないと途中で沈没する問題でした。これは慈恵医科のレベルとしてはふっとしているでしょう。昨年の東大の鋭角三角形の複素数平面での扱い方を具体的にして、式の処理に注目させる問題というこのレベルの扱いやすさもよかったと思います。ただ受験生、特に現役の受験生にとっては難しかったと思います。
いずれにしても、今年の出題は横市医の半分は易しくて半分はかなり難しいという出題傾向と合致するような問題設定でした。
正規合格者の数学レベルは、第1問、第2問完答、第3問(1)で肉薄する部分点、第4問でまとまりはないが事実から立式した部分点ということで、65%程度と判断します。
日医を受けた塾生の受験の感想を一つ、数学で第3問を捨てる(式の形から解答の方向づけの臭いはしたのですが)という好判断、さらに第2問、4問、5問を8割~9割得点して、たっぷり貯金ができたと思ったところで第1問の(2)で沈没、4STEPレベルの問題だったのにと大魚を逃してしまいました。易しい問題を確実に処理するという受験の鉄則を思い知らされたようです。、東邦の数学は問題数減と易化で9割だったそうですが、これはお互い様です。
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